§ 味覚のない世界
正直言って、こんなことを書くべきかどうか?ずっと悩んでいた事です。 ![]() お見舞いの花・・・僕には、どうも似合いませんねぇ(笑) 放射線治療で「味覚を失う」事は、以前にもチラッとは書きましたが どんな風に<失う>のか、どの程度<失う>のか? そして失うと<どんな感じ>なのか?具体的には、ほとんど書きませんでした。 世の中には「知らないほうが幸せなこと」や 「事前に知らせないほうが上手く行く事」も数多くあります。 極度の苦痛が伴う話や人生の喜びが阻害される話。 そんな「不利益があるなら、治療を受けない」と、治療を拒否されかねない話。 そして、他人から見れば「ちょっとした障害」と考えられがちな「些細な障害」?の場合。 ・・・まぁ、こんなところでしょう。 僕自身、手術をしたらどうなる?手術後の生活は?なんて 手術前にはそれどころじゃなくって、気が付いたらベッドの上・・・でしたから 「痛い」と言っても後の祭り。まぁ後は回復するだけ・・・でしたから 手術は喉元をこういう具合に切り開いて・・・などと余り聴かされない方が まぁ、幸せだと思いましたしね(笑)。 ※それにしても、両耳の根元から根元までぐるりと「Uの字型」に よくもまぁ切っていただいたもので、気管も声帯も隣りのリンパ節も甲状腺も 周りの筋肉組織も脂肪も、根こそぎごっそりと、よくも取って頂いたもので(笑) そんなこと、後で聞いたから問題なく手術出来たけれど、 事前に効いていたら、娘は気絶の、僕は手術拒否・・・なんて事はさすがに有りませんが それなりにビビッってしまったことと思いますね。 そして、手術後の「放射線治療」。 もちろん、味覚を失うが・・・半年か1年後には回復する。 唾液は出なくなるが、こっちは残念ながら一生治りません。 まぁ「人工唾液」と言うのも開発されてますから・・・などと 一応のインフォームド・コンセントはしていただきました。 看護士長さんから、今のうちに美味しいもの食べておきなさい・・・ とのアドバイスもいただきました。 でも本当はそれがどういう事なのか? 正直ピンと来てはいなかったのですね・・・。 何しろ「喉頭癌」ですから、「今日明日の命」とは言いませんが 癌を治療できるかどうかの話ですから 自分のいのちと、食事の楽しみとどっちが大事なんですか!という事ですが、 治療後の「長い長い生活時間」を考えると やっぱり、先輩患者としての実感インフォームドコンセントくらいは ちゃんとお伝えしておかなくては・・・と、思うわけです。 ●そこに思い至った経緯は、以下の通りです。 先日、さる放射線専門医の先生から、励ましのコメントをいただきました。 3月11日(黒い小物の項)ですから、バックしてご覧ください。 とってもうれしいお便りでしたが、その中に気になる一節があったのです。 ▼以下、その一節です。 放射線治療後が大変なので、放射線治療を受ける前に、 「美味しいお寿司や料理を味わえるのは、今だけかもしれないので、 思い残すことのないよう、気合入れて食べて来てください」というのですが、 大抵の人は、治療中に初めて理解できるようになられるようです。 ●その通りなんですね。ピンと来にくいけど 食べ物が「心から美味しい・・・」と感じられるのは、もう最後の食事なんです。 僕自身は、いつもレシピを書いてるような「食い意地の張った」人間ですから 手術前に、なじみの店に「しばしのお別れ」を告げに通い倒しましたから(笑) ・江戸前寿司 握り各種 ・知る人ぞ知る 温かい握り寿司 混ぜ・混ぜ・トロ・鯛・アジ棒 ・豆腐百珍料理が売り物の 豆腐料理専門店 ・料亭、小料理、割烹、各一店:お任せコース&アラカルトで。 ・うなぎ専門店 肝焼き、うざく、う巻き、うな重の上、肝吸い一式 ・天麩羅専門店 季節のお任せコース+アラカルト ・関西風おでん専門店、「関西炊き」一式+雑炊 ・インド料理専門店 カバブ・ティッカ・ナン・カレー3種・マンゴアイス(笑) ・パスタの名店、カルボナーラ、ボンゴレビアンコ、ペンネ、ミラノ風カツレツ、他 ・串カツとオムライスの名店 串カツ、コロッケ、オムライス ・蕎麦屋 3軒:鴨なんば、敦盛蒸篭、天なん蕎麦、わりご蕎麦 ・うどん屋 3軒:天釜うどん、生醤油うどん、おじやうどん ・四川料理、広東料理、ハルピン料理各専門店。 ・すき焼きの有名店 鴨鍋専門店、鴨の串カツ屋さん・・・ ・・・一体何軒行ったやら(笑)ですから、大して思い残すことも有りませんが、 癌だし食欲も無いし・・と1~2軒しか行かなかった方のために もう少しちゃんと説明してあげれば・・・との思いもありました。 ●放射線治療を終えて、鼻からいに通した流動食のチューブを抜いた時 僕には、味覚というモノが「まったく」ありませんでした。 手術後、あんなに美味しかった「お粥」が、塗り壁の土を食べてるような味・・・ 先生にいかがですか?と聴かれて 「世の中に、あんなマズイモノがあるんでしょうか?」 と、思わず毒づいてしまいました(苦笑)。 その上、刺激物に対する極度の過敏症。 胡椒が効いているから・・・と、ポテトサラダ、ソース、ケチャップなどが 辛くて涙が出て、口中がヒリヒリして食べられないのです。 ●人は眼にみえる障害、頭で考えて「大変そうな」障害には敏感です。 目が見えない、耳尾が聞えない、しゃべれない、手足が不自由・・・。 でも、目と耳以外の感覚器の障害にはどうでしょうか? ヒトには5感があります。視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の5つですね。 これは哺乳類にはと言い換えてもいいくらい原点的な感覚です。 声帯を摘出すると、鼻の中の空気が動かないため、嗅覚を失います。 そして、放射線治療では味覚を失います。 ・・・つまり、香りも味も無い食事を一生続けることになるわけですね。 (もちろん、ある程度回復はしますが、全部ではありません) そして、抗がん剤治療は、指先などの皮膚感覚も鈍くして行きます。 早い話、5感のうち3感が不自由になるわけですね(やれやれ) 視覚と聴覚を失うことは、ヘレンケラーの話などで想像に難くないですね。 でも、残りの3感についてはどうでしょう? たとえば触覚はどうでしょう? 猫だって犬だって、愛情表現に体を擦りつけてきます。 可愛いですね。こっちも気持ちいいものです。 でも、分厚いスキー手袋をして体に触れても心地よい感覚でしょうか? 香りの無い松茸って、エリンギと変わりませんね。 平目と鯛の区別が付かない刺身、 ジューシーな肉汁の旨さも何も無いハンバーグ 醤油の焦げた香りが「食欲をそそらない」おこげ 単なる「熱いだけ」のそばつゆ、鴨の出汁、ラーメンスープ 色でしか区別の付かないビーフシチューとクリームシチュー・・・。 皆さん、こんな食事が半年も一年も続くんですよ! そして唾液の出ない食事は、円滑な咀嚼を阻害し、口内の衛生を損ないます。 つまり、食べ物はクチの中のあっちこっちにくっついて、ちゃんと噛めないし 歯の汚れはいつまでも取れずに、虫歯を誘発します。 (普通は、唾液が強力な消化作用で溶かして清潔さを保ちます) それでも、愚痴一つ言わず、前向きにレシピなどを書いてる僕は 偉いのか、バカなのか?時々は嫌になります(苦笑)。 ※ちなみに、どうやって料理を作ってるかと言いますと 以前の感覚で、味付けの塩梅を「少し足りないくらい」で調合して 家内や娘に「味見」してもらって、その意見に従って調整します。 数ヶ月を経た現在では、 自分の舌と、健常者の舌の差も、大体の勘が働くので 僕には少し足りないが、普通はこんなもんか?と言う具合で 何とかいけるようにはなりましたが、 出来たものは、りんごの酸味が効いていて旨い!とか ふきのとうの香りが立っていて、なかなか美味しい・・・ヒット作! などと、評してもらわないと「本当のところ」はわかりません。 ● 以前の経験から、こうすれば多分こういう香りと味になるはずだ!という 勘を頼りに作っているわけです。 ※当然、「はずれ」もあります・・・ブログに書かないだけですね(笑) ▼ これ以上書くと「愚痴っぽく」なるので、書きませんが 味覚と嗅覚、そして触覚は、視覚や聴覚よりも以前に発達した 生物としての本能的かつ原初的な<悦びと官能の感覚>です。 そりゃ、命の方がはるかに大切ですから、放射線治療はちゃんと受けてください。 でもね、最後に食事なんですから さすがに「僕のように食べ歩きなさい」・・・とは申しませんが やはり「ちゃんと味わって最後の食事を味わう」事を心がけてください。 ![]() ●とはいえね!味覚は何とか「戻る」と言えば「戻ります」よ。 それは、僕のレシピを見ての通りですが、努力はやっぱり大切です。 どの程度戻って、どんな希望が持てるかなどは 各レシピの合間に書いている「余談」から読み解いてください。 放射線治療から、約1年。 自身の味覚はともかく、美味しい料理の自信だけは、何とか取り戻せたようです。 ご訪問ありがとうございます。 喉頭癌の患者様の目に止まりやすいよう、ブログランキングに参加しております。 喉頭癌の認知と理解促進のために、今回もぽちっと押してください。 ![]() スポンサーサイト
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